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職員のワークライフバランス

写真 清野佳紀名誉院長

大阪厚生年金病院における職員のワークライフバランスの推進状況について











大阪厚生年金病院 名誉院長
清野佳紀

1.女性医師支援対策の現状と課題

 近年、国家試験を合格する女性医師の比率が、33%ないし35%と高率になっているので、当然のことながら若年医師層の女性医師の比率が、著しく増加している。29歳以下の医師の増加数は毎年250名程度であり、その内訳は男性医師が毎年100名ほど減少しているのに比べ、女性医師は毎年350名以上も増加しているのである。つまり若手医師の供給では、地殻変動的に女性医師の比率が増加しつつある。女性医師に限らず、一般の労働者の就業率も、先進国に比べわが国や韓国などでは、30代に就業率が低下するM字型のパターンをたどっている。つまりわが国ではいまだに女性労働者の出産・育児などの支援体制が遅れているということを物語っている。この就業率の差は、その国の社会が女性労働者の就業をどれだけ支援しているかで決まる。このことは、当然ながら医療労働者にもあてはまる。
スライド1女性医師の割合  最近、よく「医師不足」と言われているが、これは勤務医不足であり、開業医不足ではない。勤務医の労働条件が過酷のために勤務医が開業医になるということである。前述したように、若い世代に女性医師が増えているため、とくに女性医師の場合は、出産並びに育児期間中に過酷な労働条件に耐えかねて2割程度が退職していくのである。2009年に日本医師会の調査したデータによると、産休を完全に取得している女性医師は74.4%であり、育児休暇となると取得率は37.4%に過ぎない。これらの取得率は他の職種の女性労働者に比べて極端に低い取得率となっている。その結果、日本小児科学会で調査したところ日本の女性勤務小児科医の就業率ピークは20代後半であり、30代後半には50%以下に低下していた。わが国では、女性医師は皮膚科、眼科、産婦人科、小児科で比率が多いが、その中でも多忙をきわめる産婦人科、小児科などは、そのまま放置するとますます深刻な医師不足が到来することになる。
日本小児科学会では、女性医師になぜ仕事をやめるのかというアンケート調査を行った。圧倒的に多い理由は、
①育児 ②妊娠及び出産
であった。そのほか
②子どもの教育 ④結婚生活
などである。
つまり、主な休職の理由は、社会ならびに家族の支援が得られないことによるものである。もちろん家族も支援したいのであろうが、日本の社会の仕組みでは夫にすら妻の育児を支援しにくいからであろう。
  ところでわが国では女性医師を保護する現行の法制度には次のようなものがある。
①男女機会雇用均衡法
②労働基準法
③次世帯育成支援対策推進法
例えば、労働基準法の女子労働基準規則第65条(平成9年改正)産前産後では、
○使用者は、6週間以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合は、そのものを就業させてはならない。
○使用者は産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週を経過した女性が請求し、医師が支障ないと認めた業務に就かせることは差し支えない。
○使用者は妊娠中の女性が請求した場合、他の軽易な業務に転換させなければならない。
さらに育児休業に関する法律(平成11年改正)
○労働者はその事業主に申し出ることにより、育児休業をすることができる。
○事業主は労働者から育児休業申し出があったときは、これを拒むことができない。
○育児休業の期間・・・子が1歳になるまで、ただし必要と認められる場合は1歳半まで
○対象は常勤雇用者。但し、一定条件付でパート、派遣社員にも適用。
このような女性を保護する基本的な法律の適応も女性医師の場合受けられないことが多い。 したがって、今後病院における女性医師の環境改善を果たすために取り組むべき対策としては、

①子育て支援
②勤務制度面の改善
③病院の拠点化と地域連盟
④生涯教育かつ再教育支援
などがあげられる。

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2.病院職員全体のワークライフバランスをめざして

 現在、彼方此方の地域で医療崩壊が叫ばれている。しかしながら、この医療崩壊というのは病院崩壊であって、診療所や開業医などは病院ほど崩壊しているわけではない。となると、問題は病院勤務医のワークライフバランスにあると考えられる。
スライド2 病院の職場環境を改善し、勤務環境の良いワークライフバランスを手にすれば、いずれ医療崩壊も改善されるであろう。私達の大阪厚生年金病院の職員のワークライフバランスの改善に関する取り組みは全職員を対象にしたものであり、女子医師・男性医師に関わらず、働く環境をより良く提供し、長く働いてもらいたいと考えている。しかし、医療の現場では、職員の7割以上が女性職員であることから考えれば、全職員のための環境を整えるためには、女性に向けたものが増えるのは必然であり、まず初めに女性が働きやすい環境を整える必要がある。当院の取り組みの中ではとくに子育て支援が有名ではあるが、実際には男性も含めて、療養生活に入った職員や、親の介護への支援なども行っており、既婚女性だけを特別に支援しているわけではない。

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3.チーム医療あるいは複数主治医制の必要性

 日本で長く当然と思われてきた1人主治医制は、医師が患者により実質24時間拘束されているわけで、当然就労環境を悪化させている。本来、まれな例除けば、主治医は1人である必要性はなく、カンファレンスやカルテを通して情報を共有すれば、主治医は何人いても医療の質は変わらないものである。逆に言えば病院は、主治医が変わっても医療の質は変わらない体制を作る必要がある。
スライド3  欧米、アジアを問わず、日本のように毎日毎日1人の主治医が夜遅くまで重症の患者さんのために残るような病院は存在しない。夜は別の医師が患者さんのケアをしている。当然のことながら、勤務医も毎晩睡眠時間を8時間とり、翌日のために英気を養う必要がある。このためには質の高いチーム医療を実践することが医師のワークライフバランスを改善するには不可欠と思われる。また、患者さんにこれらのことを理解していただくには、カンファレンスと引継ぎを十二分に行い、どの医師が1人の患者をケアしても標準化した医療の提供を受けることが出来ることを納得していただく必要がある。当然のことながら、医師数も十分に必要である。

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4.地域連携の重要性

 勤務医のワークライフバランスを守るために、前述したように病院も精一杯の努力をしている。しかしながら、地域医療というものは病院だけが頑張っても医療崩壊を食い止められるものではない。地域住民と診療所・開業医の先生も一緒になって医療を守る必要がある。 スライド4 大阪厚生年金病院は、福島区を中心とする6区の人口約45万人からなる西部医療圏の中核病院である。古くから地域の診療所との連携はきわめて良好である。2009年度の紹介率は65%であり、逆紹介率は75%であった。また、地域支援病院にもなっている。さらに産婦人科はオープンシステムを導入しており、2009年度の分娩数680件のうち、オープンシステムで123件分娩している。救急も全科で24時間救急を行っており、地域の診療所からの救急患者は原則として全て受け入れるようになっている。このような地域の診療所の先生と当院の良好な関係から、当院の救急や当直の支援もしていただいている。例えば、小児救急当直や産婦人科救急当直の7割を、地域の先生が行ってくれている。このことが当院の医師のワークライフバランスにきわめて役立っていることは言うまでもない。また、このことを実行するには、地域住民の理解も必要である。

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5. ワークライフバランス委員会の重要性

スライド5

 ワークライフバランスを守るための規則はいくらでも作ることは出来る。しかし、より重要なことは、毎日の病院の運営のなかでそれが守られているかどうかをきっちりと検証することである。当院には様々な職員により組織されるワークライフバランス委員会があり、私自らが委員長として指揮をとっている。勤務時間や当直の回数がきちんと守られているかに始まり、保育所の運営状況、さらには医師や看護師以外にもコメディカルの学会参加や研修状況を把握している。さらには、院内のアメニティや職員旅行、接遇など広い意味の職員が余裕を持って仕事を出来ているかどうかを検証している。私はこの委員会を職員のモチベーションの向上のための委員会と位置づけている。つまるところ、職員を大事にして『この病院で働きたい』という精神を培うことが何よりも重要だと思う。

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(参考文献)
1)清野佳紀: 女性医師が働きやすい環境づくり.日本医師会雑誌.2007.10; 136(7): 1324-1328.

2)清野佳紀: 女性医師支援体制の課題と対策.総合臨床.2007.9; 56(9): 2761-2763.

3)清野佳紀: タイムスレポート「病院存続のカギを握る女性医師 カスタマイズされた支援が確保の秘訣」. 医療タイムス. 2010.1; 1949: 34-35.

4)清野佳紀: PARTNERS「看護師を含め人材不足を解消するキーワードはワーク・ライフ・バランスです。」.PHILIA. 2010.1; 2: 3-5.

5)清野佳紀: ドクターの肖像「勤務医が良いワークライフバランスを手にすれば、いずれ医療崩壊も改善される。」. DOCTOR’S MAGAZINE. 2010.2; 123: 4-11.

ドクターの肖像
(画像をクリックすればDOCTOR'S MAGAZINEのサイトへ移動します)

6)清野佳紀: シリーズ地域医療「職員を大事にする病院でありたい-ワークライフバランスの向上は医師不足に対する特効薬-」.Suzuken Medical.2010.4; 13(2): 13-14.
連 絡 先
大阪厚生年金病院 庶務課
TEL: 06-6441-5451
MAIL: syomuka@okn.gr.jp
最終更新日:2010年5月26日

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